JEANS INSIDER

"XX"の世界


この「ジーンズ・インサイダー」というページは、故意に異色を狙ってるワケではないのですが、話を一般目線で貫徹させようとすると、なんとなく、ヴィンテージ、レプリカ、といったブームのアンチテーゼのように捉えられてるフシも無きにしも…。
それはひとえに、ネット上では現世と違って明らかにマニア密度が濃いからなんですが、今回カジュアルブランド製品の縫製などを手がけて、自身もLevi's501-xxファンで、その細かい仕様を研究したというある方に"xx"(ダブルエックス)の魅力を伺う機会がありました。 そこで、ここに私の駄文よりも、ぐぐ〜っと実感のこもった会話の一部を掲載します。


XX(ダブルエックス)は最高


私「本物の"XX"は、縫製という部分では、どうなんですか?」

「今は復元された糸が手に入るんですが、ものすごく太い糸を使っているところがあって、そこだけは今のところ糸が無い。太さはたぶん0番から6番の間ぐらいですね(注:ジーンズの縫い糸は普通20番なので、そうとう太い)。力のかかる所はやっぱり太い糸、使ってますよ。けれども、感じとしては、一定のつくりじゃない、なんというかアメリカ的ないい加減さもあって、そこがまた魅力的なんですが」

私「個人的には、みんながみんな"XX"の生地を“いい”と言っているけれど、本当にそんなにいいものかどうか、なぜそこまで、っていう感じもあるんですが」

「これはね、たとえば、まずヒザの裏とか、Gジャンならヒジの反対側に折り皺のアタリが出ますよねえ。このコントラストが強い。見てガツンと来るものがありますよ、やっぱり。それでいて、洗う前の色は、そんなに濃いっていう色じゃないんですよ。いわゆる黒っぽい紺じゃない。藍染のそれともまた違う感じの色なんです。それと一番決定的なのは、どうしてもこの生地を再現できないんですよ」

私「無理なんですか?」

「難しいでしょう。というのは、突き詰めるとどうも綿そのものの問題になるんです。綿というのは今、現実にはアメリカ綿とはいっても、市場の動向でその時、仕入れやすいエジプトとかインドとか、いろんな産地の綿を混ぜて使っているわけで、実は綿が違ってくると色の出方が、ほんとにはっきり違ってくるんです。」

私「そうですか」

「日本人ってやっぱり無い物は欲しがるじゃないですか。そういう面も確かにあります。ただ、わたしも長くこの仕事をやってきた中で、あの"XX"の生地はインパクトあります。やっぱり最高だと思いますよ」

私「それと、アメリカのいい加減な縫製もひっくるめての魅力なんですね」

「その通り。私は本物を糸の太さからミシン目一本にいたるまで調べたんですよ。ただ、もうあの時代は細かいところでいろいろ違った物があって、要するに、その時ある糸、あるパーツを使ってる感じなんですよ。造ってる工場によって造り方がばらばらだったようだし、糸なんか、掛け替えるのって面倒ですから、昨日と違う色だけど、まあいいか、みたいな調子でしょう。一方、私たち日本人の仕事というのは、どうしても、きちんと仕上げるクセが付いてるから…」

私「よけい、魅力的に映る?」

「そうですね」

私「そういえば、私もよく糸の始末が悪い商品を見ると『アメリカ仕事だなあ』って言ってましたよ」

「はっはっはっ」

私「例えば、今までにないこれこれこういう仕様のデニムを作りたいと、一般の方に呼びかけて、50人もしくは100人分のジーンズのオーダーが取れたとして、その分だけのオリジナルの生地を注文してさらに、縫製代も入れて一本2万円以下で出来る見込みはありますか?」

「まず、大問題があります。デニムの経糸は一本3千メートルなんですよ」

私「3千メートル!?じゃあ生地も一反が3千メートルですか」

「そうです。一反は60メートルくらいなんですけど、それは切って60にするんで、最低3千メートルのオーダーをしないといけないから、これだけでだいたい250万円から300万円くらいかかるんですよ」

私「それはちょっときついですね」

「そうですね。それからあなたのページで書かれていたように、しっかり染めた生地というのは確かに長い時間でいい色になると思いますけど、今程度の染めっていうのはお客さんの要望なんですよ。つまり半年くらいでいい色落ちにならないと、それ以上は待ってられないみたいな…。要は、ある程度の期間でいい落ち具合を楽しみたいっていうのがあるんですよ。もっともそれを超えて穿き続けるとやっぱり色が抜けすぎるという事になるようですけれど」

私「なるほど。ずーっと色落ちしないと面白くないですからねえ」

「もちろん中には、2年目のいい色落ちを意識したものもあるんですよ。だけど、買う側としてはやっぱり安い物じゃないから、結果が出てる物を選ぶっていう人も多いはずですよ。その結果という物は早くどこかで出て欲しいというメーカーの思惑もあるし」

私「たとえば、枷(カセ)染めまでする程のものでもないわけですね」

「そう、枷染めなんかだったら、ほんとに落ちないでしょう」

私「枷染めだと落ちない?」

「ええ、あれは芯まで染まるようですよ、枷染めの場合は…。日本でも昔は枷でやってたらしいですよ。しかしそれはあまりに大変だっていうんでロープ染めになったんでしょう」

私「なるほど」


筆者は枷染めこそ究極の染めだと思いこんでいたのだが、どうやらそういう単純な事ではないようだ。もっともそんなに高くつく方法はジーンズらしからぬ作り方ではあるけれど…。


●枷染めというのは糸を枷という木の器具に巻いて束にした状態で、藍の入った漕(カメ)にザブンと漬けて引き上げて絞る(表面が酸化して発色する)ということを何回か繰り返す染め方。ビッグジョンのウェブページに詳しく写真付きで紹介されています。

●ロープ染めは長い経糸を数百本一度にローラーで送りながら連続的に藍(インディゴ)の入った複数の漕へくぐらせて行く染め方。漕と漕の間で酸化(発色)をさせる。



藍とインディゴ


枷染めの話の、ついでの話で、知ってる方も多いと思いますが、藍染の藍とジーンズに使われる合成インディゴは物質のレベルでは限りなくイコール。これは昔ドイツの化学会社がその組成を分析して全く同じ分子構造を石炭から大量に合成する事に成功した結果なんです(BASFという会社だったかな?まちがってたら御免です)
ですから、藍を発酵させて取れる本藍にどうしても混ざってしまう不純物(青い染料成分以外のトコ)を除けば、もう全く一緒なんですね。

しかしながら、やはり本藍染めだと、すなわち枷染めになるらしいので、そのあたりで染めがしっかりするということはあるワケです。
ただし、これは手間と時間を贅沢に使うから、おいそれと出来る物ではないので、これでジーンズを造るのはずいぶん高く付くはずです。

実はちょうどバブル景気のころに何社か本藍染めのジーンズを相次いで出していました。値段は、たしかジーンズで38000〜48000円くらいでした。
当時の高額ゼイタク志向にみごとにマッチしたモノでしたが、その当時でも「本当に本藍100%?…怪しいぞ」みたいなことを言う人もチラホラいました。それは、もし繊維を調べても区別は不可能だと、もっぱらうわさされていたからです。
さらに、もし合成インディゴにいくらか本藍を混ぜたとして、それを「藍染」ということにしていいんだったら、定価7000円くらいでも藍染ジーンズが出来るでしょう。


ところで日本で藍染といえば、染める行程と、藍を建てる(発酵させて染料に仕上げる)事が古来からワンセットになっていて、切り放せない文化になってますが、これがインドになると、藍を染料にする人と染める人はまったく別になってるようです。
ちなみに、インドは暑いので日本のようにカメを温めたりせずに、いきなり池の中で発酵させてます。今はほとんどやる人がいないそうですが。

そうやって出来た藍(インディゴ)を単に輸入していた西洋人には、本藍も合成藍も同じ染料としか感じられないでしょうが、そういう合理的割り切りも、時として大事じゃないかなと思うのです。 "味の素"って、もとは昆布から発見されたものだけれど化学調味料っていう響きが、少し災いしてるフシがあります。…が、もう外食産業なんか、アレ抜きには考えられないでしょう。
例えば合成インディゴじゃなくて、英語のピュアインディゴ。もしくは本藍に対して純藍(!)とか、そんな呼び名に替えたらどうかな。

結局、日本人の私としては、やっぱり藍染に特別のステイタスを感じますが、ジーンズは合成インディゴで十分じゃないかと思うんです。
妙に安い本藍染ジーンズも???ですが、伝統技能の職人さんを、作業着もどきの製造に使っちゃあいけませんよねえ。…なんかいつもの強引なオチですが。

百数十年のジーンズの歴史の中で、過去に本藍でブルーに染められたジーンズがあったという史実も無いようで(結果的に日本でやってしまってるわけだが)先の"XX"についても「本藍染めは邪道」という意見もあるらしい。



ユニオンスペシャル


レプリカジーンズというのは、7,8年前くらいからあったように記憶しているけれど、去年あたりがどうやら人気のピークだったらしい。
ちなみに筆者といえば、そのころはジーンズとは無縁の仕事で、残業、出張の繰り返し状態でしたから、まったく知る由もなかったワケです。

レプリカジーンズは、シャトル機という効率の悪い機械でデニムを織るんで、おそらく去年は日本中の、この古い機械はフル稼働させられたにちがいないでしょうが、もう一つ、フル稼働もさることながら高騰までしたという機械があって、それが「ユニオンスペシャル」というミシン。

ユニオンサンプル

ある人が見せてくれたユニオンの裾。アタリがこまかい。意外にヨレてない。たぶんステッチより上側のアタリもTいいUのひとつ(だろう)。


普通家庭用、職業用というミシンは下糸をボビンという小さな糸巻きに仕込んでおく仕組みなので、ある程度の距離を縫うとボビンを取り替えなければならない。これはけっこう面倒なんです。まあ、しかしジーンズショップでは、どうせしょっちゅう糸の色を替えないとならないので、同じことなんですけどね。
工業用になると、同じ糸でずんずん縫っていかなきゃならないんで、下糸がチェーン状になるミシンを使うんですが、要するにボビンがなくて、代わりにぶっとい糸巻きから直接ガンガン糸を送れるワケです。

ここまでは、私も知ってはいたんですが、どうやらこのミシンの中でも、先ほどのユニオンスペシャルという、古いアメリカ製の工業用ミシンが大活躍なのだそう。

つまり、古いジーンズはこのミシンでスソが縫われていたので、スソを切っても同じように縫って欲しいというこだわりと、このミシンが作る独特の縄目のようなヨレがその後、ねじれたようなスソのアタリを生み出すということで、ショップはおろか、一般にまでこの固有名詞が広まったようです。

言われてみればたしかに、チェーンステッチのスソは派手にヨレてます。しかしそれがTいいUと言われるようになったところがミソで、たとえば普通のミシンで生地を引っ張りぎみに縫うとチェーンのそれほどでもないですがヨレが出るんです。
しかも、初心者は緊張して生地を押さえ付けるので、だいたいヨレちゃって「あーあ、やりなおし!」みたいな事になる。要はヨレないように縫うのが熟練者のささやかな誇りだったんですが、どうやらT早いけどどうしてもヨレてしまうUという工業ミシンの欠点がいつの間にかすごい評価ポイントに化けていたんですね。
世の中わかりません。

●ユニオンスペシャルじゃない国産のチェーンステッチミシンでもけっこうヨレは出るんじゃないかな。ヨレてないチェーンはあまり見たことがない。エドウィンなんかユースモデルでもずーっとチェーンだった。たしか。

●チェーンだとほどくのがラク。ちょっと切って引っ張るとプルプルプルっていう感じでほどける。

●ヨレのはげしい"ユニオン"は業界では人気がなかったらしく、十数年前までは、中古で5万円くらいなものだったらしい。今じゃ50万をふっ掛ける業者がいるとか。ただし国内にはもうブツがないので、アメリカまで探しに行く業者もいるらしい。

●ラングラーは伝統的にスソをチェーンステッチで縫ってなかったという話をきいたことがある。いわく「ブーツのかかとに引っかかるから」
カウボーイブランドらしいが、あまりにT出来すぎた話Uかな。



"RRR Original Jeans"


他のジーンズ関係のページというのは、実はこのページを始めた9月まで、殆ど見たことがなかったんですが、もし"RRR Original Jeans"のような熱いページを見ていたとしたら、かなり影響を受けてしまっていたかもしれない。

このページを見たのは、ついひと月ほど前なんですが、知らない人のためにざっと説明すると、昨年、ネット上でしか知らない若い3人の"XX"ファンが、やはりネット上で自分たちのオリジナル"XX"レプリカを企画して商品化してしまったわけです。
その舞台となっている共同ページが"RRR Original Jeans"なのですが、この商品は結果としてネットで2ロットが完売したというから、おそらくネット販売で一番売れたジーンズじゃないのかな?

このページについては、糸井重里さんの興味から本になったり、NHKでも取り上げられたりという話題も付属してるんですが、筆者がすごく画期的だなと関心したのは、とにかく企画進行の状態がオープンなのです。しかも妥協した部分までしっかり記述されているのです。
普通の企業なら実際の完成前に「ここは、こうしよう」「いやこれでいいんじゃないの」みたいな内容を公開するはずがないし、考えられない。
そして、発売時はもちろんあらゆる部分で良くできているとしか言わない。
RRRのページは強いてあげれば「ASAYAN」というオーディション番組に近いかも知れない。けれど、あの番組はそれを含めて最初から企画されているはずだから、やはり似て非なる物かな。

そして、ここまでオープンなRRRなので、買い手も実は、希な体験をすることになるのです。すなわち、納得100%の買い物。これ以上16000円を納得して払えるジーンズは他に無いでしょう。

"RRR Original Jeans"が、今後どう展開するか、楽しみな部分もありますが、その性格上、展開が難しい面もあるかな、とも思える。…けれど、どちらにしろ間違いなく今後、必ず伝説になるでしょう"RRR"は。
運良く買われた方はラッキーです。

●聞くところによると、雑誌関係者、あるいは有名メーカー関係者もページを人知れずチェックしているんだとか。

●レングスは自由にオーダーできたらしい。一見当然のようだが、それがメーカーサイドでやるということは画期的。



リンク・・・

●チェーンステッチによるスソの画像(手持ちの)
●ユニオンスペシャルの画像は小さいのが"ここのページ"にあります。
●"RRR Original Jeans"のページはその後、活動の区切りということらしく'99/2/2に休止となっています。ちなみにURLはhttp://www.intersky.ne.jp/%7Erj/rrr_jeans/



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